
こんにちは。Daddyです。
今回は、King Property(キングプロパティ)という性質を勉強しましょう。

名前がカッコいい…!
King Propertyはその名前に劣らず、非常にエレガントな計算テクニックです。
今回の記事は、キホン的な定積分ができる人向けです。
この記事を読んだすべての方が、その美しさに感動すること間違いなし!
めざせ、定積分マスター!
King Propertyとは?
King Propertyとは、定積分で使える性質の1つです。
カンタンに言えば、定積分で使える計算テクニック。
早速ここで注意しなくてはならないことがあります。
それは、定積分にしか使えないということ。
しっかりと本質を捉え、解法を頭に入れれば間違えることはまずありませんが、念押ししておきました。
さて、King Propertyというエレガントな式は、一体どのようなものなのでしょうか?
\(\mathrm{King \ Property}\) の式$$\int_a^b f(x) dx = \int_a^b f(a+b-x)dx$$

何これ。やっぱり難しすぎるて。

嘆くのはまだ早い。
こういうタイプの式って、例題見た方がよくわかんねんで。
まさにその通り。
例題を通して、ゆっくり理解していきましょう。
\(I=\displaystyle \int_0^{\frac{\pi}{2}} \dfrac{\cos x}{\sin x + \cos x}dx\) を計算せよ。
これは非常に有名な問題。
間違っても \(t= \tan \dfrac{x}{2}\) と置換して……みたいなことをしてはなりません。
まず着目すべきは、三角関数だらけということと、なんとなく対称性が見えるということです。
定積分の問題でこんな場面が来たら、まずはKing Propertyが使えるかどうか試します。
それでは本題。King Propertyをお見せしましょう。
今回の定積分は、\(I = \displaystyle \int_{\color{red}{0}}^{\color{red}{\frac{\pi}{2}}} \dfrac{\cos x}{\sin x + \cos x} dx\) といったものです。
ここで、積分区間の端っこ同士を足したものから、\(x\) を引いてみたいと思います。
積分区間は、\(0\) から \(\dfrac{\pi}{2}\) まで。
\(0+\dfrac{\pi}{2}-x\) より、\(\color{blue}{\dfrac{\pi}{2}-x}\) ですね。
いきなりですが、これを元の定積分の \(x\) にぶっ込みたいと思います。つまり、
\(I = \displaystyle \int_0^{\frac{\pi}{2}} \dfrac{\cos \color{blue}{(\frac{\pi}{2}-x)}}{\sin\color{blue}{(\frac{\pi}{2}-x)} \ \color{black}{ + \cos } \ \color{blue}{(\frac{\pi}{2}-x)}} dx\) としてみるわけ。(青色のところにぶっ込んでます)
ここで、さりげなく \(I=\cdots\) と繋げていますが、実は、2つの定積分はおんなじ答えになります。
理由は後で説明します。

す、すげー。
でも、答えがおんなじになったところで何が良いん?

まだまだ甘い。
三角関数は、カッコの中に \(\pi, \dfrac{\pi}{2}\) とかが入ってたら、もっと簡単にできるやろ?
復習ですが、\(\sin \left(\dfrac{\pi}{2} – x \right)=\cos x\) となり、\(\cos \left(\dfrac{\pi}{2} – x \right)=\sin x\) となりますよね?
ということは、
\begin{eqnarray}
I &=& \displaystyle \int_0^{\frac{\pi}{2}} \dfrac{\cos (\frac{\pi}{2}-x)}{\sin (\frac{\pi}{2}-x) + \cos (\frac{\pi}{2}-x)} dx\nonumber\\
&=&\displaystyle \int_0^{\frac{\pi}{2}} \dfrac{\sin x}{\sin x + \cos x}dx \nonumber\\
\end{eqnarray}
もとの式に形が似ていますよね。
唯一異なるのは、分子が \(\sin\) か \(\cos\) か。
それでは、この似ている式どうしを足し算してみましょうか。
\begin{eqnarray}
&\quad& I+I \nonumber\\
&=& \displaystyle \int_0^{\frac{\pi}{2}} \dfrac{\sin x}{\sin x + \cos x}dx + \displaystyle \int_0^{\frac{\pi}{2}} \dfrac{\cos x}{\sin x + \cos x}dx \nonumber\\
&=& \displaystyle \int_0^{\frac{\pi}{2}} \dfrac{\cancel{\sin x + \cos x}}{\cancel{\sin x + \cos x}}dx \nonumber\\
&=& \displaystyle \int_0^{\frac{\pi}{2}} 1dx \nonumber \\
&=& \displaystyle \int_0^{\frac{\pi}{2}} dx \nonumber \\
\end{eqnarray}
↑スクロール可能です。

!!!
めっっっっちゃ約分されてる!
その通り。
三角関数など、一部の特別な関数は、\(f(x)\) の中身を \(f(\Box -x)\) のように置き換えても、綺麗な形になることがあります。
今回なら、\(\dfrac{\pi}{2}-x\) というものに置き換える感じですね。
そうして得られた二つの定積分を足し合わせると、非常にうまくいくことがあるのです。
これがKing Property。
ということで、すっきりした記述解答はこんな感じ。
\(I=\displaystyle \int_0^{\frac{\pi}{2}} \dfrac{\cos x}{\sin x + \cos x}dx\) において、
\(t=\dfrac{\pi}{2}-x\) で置換すると、
\(I=\displaystyle \int_0^{\frac{\pi}{2}} \dfrac{\sin x}{\sin x + \cos x}dx\)
が得られる。2つの式を足して、
\begin{eqnarray}
2I&=&\displaystyle \int_0^{\frac{\pi}{2}} \dfrac{\sin x + \cos x}{\sin x + \cos x}dx \nonumber\\
&=&\displaystyle \int_0^{\frac{\pi}{2}} dx\nonumber\\
&=&\dfrac{\pi}{2} \nonumber\\
\end{eqnarray}
よって、両辺を2で割って、\(I=\dfrac{\pi}{4}\)

ちょっと待てよ。
いきなり \(t=\dfrac{\pi}{2}-x\) で置換するってどういう意味?

実はKing Propertyは記述問題ではそのまま使えない。
有名公式ではないってことやな。
そう、King Propertyは自明なものではありません。
実際、教科書にはKing Propertyという言葉自体が載っていないのがほとんどだと思います。

King Propertyをそのまま使えないのはわかった。
だからって、なんで置換するの?

それは、King Propertyの証明方法にある。
後述しますが、King Propertyは置換積分すると一瞬で証明することができます。
ただ、その『一瞬』の証明が『そこそこ長いくせに、けっこう当たり前』なんですよね。
採点者側もその置換積分そのものを採点基準にしていないことも多いです。
ただ、解答方針だけは明確にしておかないと、論理の飛躍ができてしまいます。
『King Propertyより、…』と書くのもNG。
あたかも置換積分した感をアピールする必要があるのです。

最後に注意。
King Propertyで求められる値は \(2I\) 。
2で割るのを忘れないように!
King Propertyの証明
ここでは、King Propertyをカンタンに証明しておきます。
置換積分のキホンですので、以下の解答を一度は写経することをおススメします。
\(\displaystyle \int_a^b f(x) dx = \int_a^b f(a+b-x)dx\) を証明する。
\(t=a+b-x\) とおく。
\(x\) と \(t\) は右のように一意に定まる。

\(t=a+b-x\) より、\(dx=-dt\)
したがって、
\begin{eqnarray}
&\quad& \displaystyle \int_a^b f(a+b-x)dx\nonumber\\
&=&\displaystyle \int_b^a f(t) (-dt) \nonumber\\
&=&\displaystyle \int_a^b f(t) dt \nonumber\\
\end{eqnarray}
ここで、\(\displaystyle \int_a^b f(t) dt = \displaystyle \int_a^b f(x) dx\)
↑のように、文字をそのまま置き換えて良いのは、定積分の特徴によるものです。定積分では、積分した後に、積分区間の端っこの値を代入して答えを求めますよね?
結局、定数を代入してしまうなら、初めから \(x\) について積分しようが、\(t\) について積分しようが、求められる答えには全く影響しない、ということです。
したがって、$$\displaystyle \int_a^b f(x) dx = \int_a^b f(a+b-x)dx$$が証明された。
お疲れ様でした。
King Propertyという名前を知っておかないと、その場で思いつくのはなかなかにハードルが高い気がします。
図形的な対称性
さて、King Propertyについてですが、まだまだ納得いかない感じがありますよね。
King Propertyの正しさを図形的に捉えてみましょう。
下の2つのグラフは、GeoGebraというツールを用いて作成した、とある関数のグラフです。
(案件ではありませんが、おすすめ)


赤が積分区間を、緑が定積分した部分を表します。
何のグラフでしょうか?
正解は、1つ目が \(y=\displaystyle \int_0^{\frac{\pi}{2}} \dfrac{\sin x}{\sin x + \cos x}dx\) で、2つ目が \(y=\displaystyle \int_0^{\frac{\pi}{2}} \dfrac{\cos x}{\sin x + \cos x}dx\) のグラフです。
2つは、\(x=\dfrac{\pi}{4}\) を軸に対称になっていることがわかるでしょうか。
これで、感覚的にもKing Propertyで求められる式は、元の式と同じ値を示すのだ、とわかりますね。
応用:King Propertyもどき
最後に、King Propertyではないけど、ちょっと似た考え方をする難問をご用意いたしました。
\(I=\displaystyle \int_0^{\frac{\pi}{3}} \dfrac{\sin x}{\sqrt{2} \sin x + \cos x} dx\) を求めよ。
あらかじめ断っておきますが、答えはかなり汚くなります。
あと、いやらしいことに \(t= \tan \dfrac{x}{2}\) なんかで置換しようとすると計算が大変になるように、仕組んでおきました。
ヒントは、King Propertyでやったこと。
\(\sin, \cos\) が入れ替わった2つの式を足しましたら、簡単に定積分できましたよね。
今回は、ちょっと工夫が必要ですが、2つの式を足すことには変わりありません。
注意なのは、King Propertyは使えない、ということですね…
本題ではないので、カンタンな解説をつけておきます。
新しく \(J\) を使う。
\begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{l}
I=\displaystyle \int_0^{\frac{\pi}{3}} \dfrac{\sin x}{\sqrt{2} \sin x + \cos x}dx\\
J=\displaystyle \int_0^{\frac{\pi}{3}} \dfrac{\cos x}{\sqrt{2} \sin x + \cos x}dx
\end{array}
\right.\notag
\end{eqnarray}

この対称(?)な2式をうまく使いたい。
まず、どうにかして \(\displaystyle \int_0^{\frac{\pi}{3}} dx\) を作る。
\begin{eqnarray}
&\quad& \sqrt{2}I+J\nonumber\\
&=&\displaystyle \int_0^{\frac{\pi}{3}} \dfrac{\sqrt{2}\sin x}{\sqrt{2} \sin x + \cos x}dx + \displaystyle \int_0^{\frac{\pi}{3}} \dfrac{\cos x}{\sqrt{2} \sin x + \cos x}dx \nonumber\\
&=&\displaystyle \int_0^{\frac{\pi}{3}} \dfrac{\cancel{\sqrt{2} \sin x + \cos x}}{\cancel{\sqrt{2} \sin x + \cos x}}dx \nonumber\\
&=&\displaystyle \int_0^{\frac{\pi}{3}} dx \nonumber\\
&=& \dfrac{\pi}{3}\nonumber\\
\end{eqnarray}
\(I, J\) の連立方程式ができそうなので、もう一回2つを組み合わせて新たな式を作りたい。
\(\displaystyle \int \dfrac{f'(x)}{f(x)}dx\) の積分なら使えそうである。
\begin{eqnarray}
&\quad&-I+\sqrt{2}J\nonumber\\
&=&\displaystyle \int_0^{\frac{\pi}{3}} \dfrac{- \sin x}{\sqrt{2} \sin x + \cos x}dx + \displaystyle \int_0^{\frac{\pi}{3}} \dfrac{\sqrt{2}\cos x}{\sqrt{2} \sin x + \cos x}dx\nonumber\\
&=&\displaystyle \int_0^{\frac{\pi}{3}} \dfrac{\sqrt{2}\cos x – \sin x}{\sqrt{2} \sin x + \cos x}dx\nonumber\\
&=&\displaystyle \int_0^{\frac{\pi}{3}} \dfrac{(\sqrt{2} \sin x + \cos x)’}{\sqrt{2} \sin x + \cos x}dx\nonumber\\
&=& \left[ \ \log | \sqrt{2} \sin x + \cos x | \ \right]_0^{\frac{\pi}{3}} \nonumber\\
&=& \log \dfrac{\sqrt{6} +1}{2}\nonumber\\
\end{eqnarray}
よって、次の連立方程式が得られた。
\begin{eqnarray}
\left\{
\begin{array}{l}
\sqrt{2}I+J = \dfrac{\pi}{3} …①\\
-I+\sqrt{2}J = \log \dfrac{\sqrt{6} +1}{2}…②
\end{array}
\right.\notag
\end{eqnarray}
① \(\times \sqrt{2} -\) ②より、
\(3I=\dfrac{\sqrt{2}}{3} \pi \ – \ \log \dfrac{\sqrt{6} +1}{2} \)
ゆえに、
\(I=\dfrac{\sqrt{2}}{9} \pi \ – \ \dfrac{1}{3} \log \dfrac{\sqrt{6} +1}{2} \)
相当ヘビーな内容でしたね…
対称な2式を連立させるというのが今回のポイント。
それが押さえられたら、今回はひとまずOK。
難関大学を受けるなら、必ずマスターしておきましょう(by現役高校生)
(著作権の都合、問題を自作しているので、計算まちがってたらごめんなさい)
まとめ
いかがだったでしょうか?
King Propertyを1記事でギュッとまとめてしまったので、かなりのボリュームになってしまいました。
それでもココまでついてこれたあなたはスゴい!
ぜひ復習して、King Propertyをマスターしてください。
King Propertyは、知らない人の方が多いと思うので、早速みんなに教えちゃいましょう!
それではっ!
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